つま》つて心中なんぞを為た、と人に嗤《わらわ》れましても、情婦《をんな》の体を売つたお陰で、やうやう那奴《あいつ》等は助つてゐるのだ、と一生涯言れますのは不好《いや》で御座います。そんな了簡が出ます程なら、両個《ふたり》の命ぐらゐ助ける方は外に幾多《いくら》も御座いますので。
ここに活きてゐやうと云ふには、どうでもこの上の悪事を為んければ成りませんので、とても死ぬより外は無い! 私は死ぬと覚悟を為たが、お前の了簡はどうか、と実は私が申しましたので」
「成程。そこで貴方が?」
「私は今更富山なんぞにどうしやうと申したのも、究竟《つまり》私ゆゑにそんな訳に成つた狭山さんが、どうにでも助けたいばかりなんで御座いますから、その人が死ぬと言ふのに、私|一箇《ひとり》残つてゐたつて、為様が有りは致しません。貴方が死ぬなら、私も死ぬ――それぢや一処にと約束を致して、ここへ参つたんで御座います」
「いや、善く解りました!」
貫一は宛然《さながら》我が宮の情急《じようきゆう》に、誠壮《まことさかん》に、凛《りん》たるその一念の言《ことば》を、かの当時に聴くらん想して、独《ひと》り自ら胸中の躍々として痛快に堪《た》へざる者あるなり。
正にこれ、垠《はてし》も知らぬ失恋の沙漠《さばく》は、濛々《もうもう》たる眼前に、麗《うるはし》き一望のミレエジは清絶の光を放ちて、甚《はなは》だ饒《ゆたか》に、甚だ明《あきら》かに浮びたりと謂はざらん哉《や》。
彼は幾《ほとん》どこの女の宮ならざるをも忘れて、その七年の憂憤を、今夜の今にして始て少頃《しばらく》も破除《はじよ》するの間《いとま》を得つ。信《まこと》に得難かりしこの間《いとま》こそ、彼が宮を失ひし以来、唯《ただ》これに易《か》へて望みに望みたりし者ならずと為《せ》んや。
嗚呼《ああ》麗《うるはし》きミレエジ!
貫一が久渇《きゆうかつ》の心は激く動《うごか》されぬ。彼は声さへやや震ひて、
「さう申しては失礼か知らんが、貴方の商売柄で、一箇《ひとり》の男を熟《じつ》と守つて、さうしてその人の落目に成つたのも見棄てず、一方には、身請の客を振つてからに、後来《これから》花の咲かうといふ体を、男の為には少しも惜まずに死なうとは、実に天晴《あつぱれ》なもの! 余り見事な貴方のその心掛に感じ入つて、私は……涙が……出ました。
貴方は、どうか
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