せ》を着てゐたから、丁度今時分でした。湖月《こげつ》さんのあの池に好いお月が映《さ》してゐて、暖《あつたか》い晩で、貴方と一処に涼みに出たんですよ、善く覚えてゐる。あれが十九、二十、二十一、二十二と、全《まる》三年に成るのね」
「おお、さうさう。昨日《きのふ》のやうに思つてゐたが、もう三年に成るなあ」
「何だか、かう全で夢のやうね」
「吁《ああ》、夢だなあ!」
「夢ねえ!」
「お静!」
「狭山さん!」
両箇《ふたり》は手を把《と》り、膝《ひざ》を重ねて、同じ思を猶悲《なおかなし》く、
「ゆ……ゆ……夢だ!」
「夢だわ、ねえ!」
声立てじと男の胸に泣附く女。
「かう成るのも皆《みんな》約束事ぢやあらうけれど、那奴《あいつ》さへ居なかつたら、貴方だつて余計な苦労は為はしまいし。私は私で、ああもかうも思つて、末始終の事も大概考へて置いたのだから、もう少しの間時節が来るのを待つてゐられりや、曩日《いつか》の御神籤通《おみくじどほり》な事に成れるのは、もう目に見えてゐるのを、那奴《あいつ》が邪魔して、横紙《よこがみ》を裂くやうな事を為やがるばかりに大事に為なけりや成らない貴方の体に、取つて返しの付かない傷まで附けさせて、私は、狭山さん、余《あんま》り申訳が無い! 堪《かん》……忍《にん》……して下さい」
「そりやなあに、お互の事だ」
「いいえ、私がもう少し意気地が有つたら、かうでもないんだらうけれど、胸には色々在つても、それが思切つて出来ない性分だもんだから、ついこんな破滅《はめ》にも成つて了つて、私は実に済まないと、自分の身を考へるよりは、貴方の事が先に立つて、さぞ陰ぢや迷惑もしてお在《いで》なんだらうに、逢ふ度《たんび》に私の身を案じて、毎《いつ》も優くして下さるのは仇《あだ》や疎《おろか》な事ぢやないと、私は嬉《うれし》いより難有《ありがた》いと思つてゐます。だものだから、近頃ぢや、貴方に逢ふと直《ぢき》に涙が出て、何だか悲くばかりなるのが不思議だと思つてゐたら、果然《やつぱり》かう云ふ事になる讖《しらせ》だつたんでせう。
貴方にはお気の毒だ、お気の毒だ、と始終自分が退《ひ》けてゐるのに、悪縁だなんぞと言れると、私は体が縮るやうな心持がして、ああ、さうでもない、貴方が迷惑してゐるばかりなら未だ可いけれど、取んだ者に懸り合つた、ともしや後悔してお在《いで》なんぢやな
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