目+旬」、393−2]《みまは》せど、はや宮の影は在らず。その歩々《ほほ》に委《おと》せし血は苧環《をだまき》の糸を曳きたるやうに長く連《つらな》りて、畳より縁に、縁より庭に、庭より外に何処《いづこ》まで、彼は重傷《いたで》を負ひて行くならん。
 磐石《ばんじやく》を曳くより苦く貫一は膝の疼痛《いたみ》を怺《こら》へ怺へて、とにもかくにも塀外《へいそと》に※[#「※」は「足+禹」、393−5]《よろぼ》ひ出づれば、宮は未《いま》だ遠くも行かず、有明《ありあけ》の月冷《つきひやや》かに夜は水の若《ごと》く白《しら》みて、ほのぼのと狭霧罩《さぎりこ》めたる大路の寂《せき》として物の影無き辺《あたり》を、唯|独《ひと》り覚束無《おぼつかな》げに走れるなり。
「宮! 待て!」
 呼べば谺《こだま》は返せども、雲は幽《ゆう》にして彼は応《こた》へず。歯咬《はがみ》を作《な》して貫一は後を追ひぬ。
 固《もと》より間《あはひ》は幾許《いくばく》も有らざるに、急所の血を出《いだ》せる女の足取、引捉《ひつとら》ふるに何程の事有らんと、侮《あなど》りしに相違して、彼は始の如く走るに引易《ひきか》へ、此方《こなた》は漸く息疲《いきつか》るるに及べども、距離は竟《つひ》に依然として近《ちかづ》く能はず。こは口惜《くちを》し、と貫一は満身の力を励し、僵《たふ》るるならば僵れよと無二無三に走りたり。宮は猶脱《なほのが》るるほどに、帯は忽《たちま》ち颯《さ》と釈《と》けて脚《あし》に絡《まと》ふを、右に左に※[#「※」は「足+易」、393−13]払《けはら》ひつつ、跌《つまづ》きては進み、行きては踉《よろめ》き、彼もはや力は竭《つ》きたりと見えながら、如何《いか》に為《せ》ん、其処《そこ》に伏して復《また》起きざる時、躬《みづから》も終《つひ》に及ばずして此処《ここ》に絶入《ぜつにゆう》せんと思へば、貫一は今に当りて纔《わづか》に声を揚ぐるの術《じゆつ》を余すのみ。
「宮!」と奮《ふる》つて呼びしかど、憫《あはれ》むべし、その声は苦き喘《あへぎ》の如き者なりき。我と吾肉を啖《くら》はんと想ふばかりに躁《あせ》れども、貫一は既に声を立つべき力をさへ失へるなり。さては効無《かひな》き己《おのれ》に憤《いかり》を作《な》して、益す休まず狂呼《きようこ》すれば、彼の吭《のんど》は終に破れて、汨然《こつ
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