なる畳に突立《つつた》つたり。宮は虚《すか》さず躍《をど》り被《かか》りて、我物得つと手に為れば、遣らじと満枝の組付くを、推隔《おしへだ》つる腋《わき》の下より後突《うしろづき》に、※[#「※」は「木+覇」、388−17]《つか》も透《とほ》れと刺したる急所、一声|号《さけ》びて仰反《のけぞ》る満枝。鮮血! 兇器! 殺傷! 死体! 乱心! 重罪! 貫一は目も眩《く》れ、心も消ゆるばかりなり。宮は犇《ひし》と寄添ひて、
「もうこの上はどうで私は無い命です。お願ですから、貫一さん、貴方の手に掛けて殺して下さい。私はそれで貴方に赦《ゆる》された積で喜んで死にますから。貴方もどうぞそれでもう堪忍《かんにん》して、今までの恨は霽《はら》して下さいまし、よう、貫一さん。私がこんなに思つて死んだ後までも、貴方が堪忍して下さらなければ、私は生替《いきかはり》死替《しにかはり》して七生《しちしよう》まで貫一さんを怨《うら》みますよ。さあ、それだから私の迷はないやうに、貴方の口からお念仏を唱《とな》へて、これで一思ひに、さあ貫一さん、殺して下さい」
 朱《あけ》に染みたる白刃《しらは》をば貫一が手に持添へつつ、宮はその可懐《なつかし》き拳《こぶし》に頻回《あまたたび》頬擦《ほほずり》したり。
「私はこれで死んで了へば、もう二度とこの世でお目に掛ることは無いのですから、せめて一遍の回向《えこう》をして下さると思つて、今はの際《きは》で唯一言《ただひとこと》赦して遣ると有仰《おつしや》つて下さい。生きてゐる内こそどんなにも憎くお思ひでせうけれど、死んで了へばそれつきり、罪も恨も残らず消えて土に成つて了ふのです。私はかうして前非を後悔して、貴方の前で潔く命を捨てるのも、その御詑《おわび》が為たいばかりなのですから、貫一さん、既往《これまで》の事は水に流して、もう好い加減に堪忍して下さいまし。よう、貫一さん、貫一さん!
 今思へばあの時の不心得が実に悔《くやし》くて悔くて、私は何とも謂ひやうが無い! 貴方が涙を零《こぼ》して言つて下すつた事も覚えてゐます。後来《のちのち》きつと思中《おもひあた》るから、今夜の事を忘れるなとお言ひの声も、今だに耳に付いてゐるわ。私の一図の迷とは謂ひながら何為《なぜ》あの時に些少《すこし》でも気が着かなかつたか。愚《おろか》な自分を責めるより外は無いけれど、死んで
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