の心情は察しても可からう、それを察してゐるのが善く解るやうな挨拶《あいさつ》を為てくれと云ふのぢやありませんか。実際それは余程|難《むづかし》い、別にどうも外に言ひ様も無いですわ」
「まあ何でも宜《よろし》う御座いますから、私の満足致しますやうな御挨拶をなすつて下さいまし」
「だから、何と言つたら貴方が満足なさるのですか」
「私のこの心を汲んでさへ下されば、それで満足致すので御座います」
「貴方の思召《おぼしめし》は実に難有《ありがた》いと思つてゐます。私は永く記憶してこれは忘れません」
「間さん、きつとで御座いますか、貴方」
「勿論です」
「きつとで御座いますね」
「相違ありません!」
「きつと?」
「ええ!」
「その証拠をお見せ下さいまし」
「証拠を?」
「はあ。口頭《くちさき》ばかりでは私|可厭《いや》で御座います。貴方もあれ程|確《たしか》に有仰《おつしや》つたのですから、万更心に無い事をお言ひ遊ばしたのでは御座いますまい。さやうならそれだけの証拠が有る訳です。その証拠を見せて下さいますか」
「みせられる者なら見せますけれど」
「見せて下さいますか」
「見せられる者なら。然し……」
「いいえ、貴方が見せて下さる思召ならば……」
 驚破《すはや》、障子を推開《おしひら》きて、貫一は露けき庭に躍《をど》り下りぬ。つとその迹《あと》に顕《あらは》れたる満枝の面《おもて》は、斜《ななめ》に葉越《はごし》の月の冷《つめた》き影を帯びながらなほ火の如く燃えに燃えたり。

     第 八 章

 家の内には己《おのれ》と老婢《ろうひ》との外《ほか》に、今客も在らざるに、女の泣く声、詬《ののし》る声の聞ゆるは甚《はなは》だ謂無《いはれな》し、我《われ》或《あるひ》は夢むるにあらずやと疑ひつつ、貫一は枕《まくら》せる頭《かしら》を擡《もた》げて耳を澄せり。
 その声は急に噪《さわがし》く、相争《あひあらそ》ふ気勢《けはひ》さへして、はたはたと紙門《ふすま》を犇《ひしめ》かすは、愈《いよい》よ怪《あや》しと夜着《よぎ》排却《はねの》けて起ち行かんとする時、ばつさり紙門の倒るると斉《ひとし》く、二人の女の姿は貫一が目前《めさき》に転《まろ》び出《い》でぬ。
 苛《さいな》まれしと見ゆる方《かた》の髪は浮藻《うきも》の如く乱れて、着たるコートは雫《しづく》するばかり雨に濡《ぬ》れ
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