16]《ばか》な事を言つてゐるのですか」
「今更お※[#「※」は「まだれ(广)+臾」、368−17]《かく》しなさるには及びませんさ。若い男と女が一間《ひとま》に入つて、取付《とつつ》き引付《ひつつ》きして泣いたり笑つたりしてをれば、訳は大概知れてをるぢや御座いませんか。私あれに控へてをりまして、様子は大方存じてをります。七歳《ななつ》や八歳《やつ》の子供ぢや御座いません、それ位の事は誰にだつて直《ぢき》に解りませうでは御座いませんか。
 爾後《それから》貴方がお出掛になりますと私|直《ぢき》にここのお座敷へ推掛《おしか》けて参つて、あの御婦人にお目に掛りましたので御座います」
 絮《くど》しと聞流せし貫一も、ここに到りて耳を欹《そばだ》てぬ。
「さうして色々お話を伺ひまして、お二人の中も私能く承知致しました。あの方も又|有仰《おつしや》らなくても可ささうな事までお話を作《なさ》いますので、それは随分|聞難《ききにく》い事まで私伺ひました」
 為失《しな》したりと貫一は密《ひそか》に術無《じゆつな》き拳《こぶし》を握れり。満枝は猶《なほ》も言足らで、
「然し、間さん、遉《さすが》に貴方で御座いますのね、私敬服して、了ひました。失礼ながら貴方のお腕前に驚きましたので御座います。ああ云つた美婦人を御娯《おたのしみ》にお持ち遊ばしてゐながら、世間へは偏人だ事の、一国者《いつこくもの》だ事のと、その方へ掛けては実に奇麗なお顔を遊ばして、今日の今朝まで何年が間と云ふもの秘隠《ひしかくし》に隠し通してゐらしつたお手際《てぎは》には私実に驚入つて一言《いちごん》も御座いません。能く凄《すご》いとか何とか申しますが、貴方のやうなお方の事をさう申すので御座いませう」
「もうつまらん事を……、貴方何ですか」
「お口ぢやさう有仰《おつしや》つても、実はお嬉《うれし》いので御座いませう。あれ、ああしちや考へてゐらつしやる! そんなにも恋《こひし》くてゐらつしやるのですかね」
 されば我が出行《いでゆ》きし迹《あと》をこそ案ぜしに、果してかかる※[#「※」は「薛/子」、370−1]《わざはひ》は出で来にけり。由無《よしな》き者の目には触れけるよ、と貫一はいと苦く心跼《こころくぐま》りつつ、物言ふも憂き唇を閉ぢて、唯月に打向へるを、女は此方《こなた》より熟々《つくづく》と見透《みすか》して目も
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