》に忍ばずやと、風の音にも幾度《いくたび》か頭《かしら》を挙げし貫一は、婆娑《ばさ》として障子に揺《ゆ》るる竹の影を疑へり。
 宮は何時《いつ》までここに在らん、我は例の孤《ひとり》なり。思ふに、彼の悔いたるとは誠ならん、我の死を以《も》て容《ゆる》さざるも誠なり。彼は悔いたり、我より容さば容さるべきを、さは容さずして堅く隔つる思も、又|怪《あやし》きまでに貫一は佗《わびし》くて、その釈《と》き難き怨《うらみ》に加ふるに、或種の哀《あはれ》に似たる者有るを感ずるなりき。いと淡き今宵の月の色こそ、その哀にも似たるやうに打眺《うちなが》めて、他《ひと》の憎しとよりは転《うた》た自《みづから》を悲しと思続けぬ。彼は竟《つひ》に堪へかねたる気色《けしき》にて障子を推啓《おしあく》れば、涼《すずし》き空に懸れる片割月《かたわれづき》は真向《まむき》に彼の面《おもて》に照りて、彼の愁ふる眼《まなこ》は又|痛《したた》かにその光を望めり。
「間さん」
 居たるを忘れし人の可疎《うとまし》き声に見返れば、はや背後《うしろ》に坐れる満枝の、常は人を見るに必ず笑《ゑみ》を帯びざる無き目の秋波《しほ》も乾《かわ》き、顔色などは殊《こと》に槁《か》れて、などかくは浅ましきと、心陰《こころひそか》に怪む貫一。
「ああ、未だ御在《おいで》でしたか」
「はい、居りました。お午前《ひるまへ》から私《わたくし》お待ち申してをりました」
「ああ、さうでしたか、それは大きに失礼しました。さうして何ぞ急な用でも」
「急な用が無ければ、お待ち申してをつては悪いので御座いますか」
 語気の卒《にはか》に※[#「※」は「がんだれ(厂)+萬」、368−10]《はげし》きを駭《おどろ》ける貫一は、空《むなし》く女の顔を見遣《みや》るのみ。
「お悪いで御座いませう。お悪いのは私能く存じてをります。第一お待ち申してをりましたのよりは、今朝ほど私の参りましたのが、一層お悪いので御座いませう。飛《とん》だ御娯《おたのしみ》のお邪魔を致しまして、間さん、誠に私相済みませんで御座いました」
 その眼色《まなざし》は怨《うらみ》の鋩《きつさき》を露《あらは》して、男の面上を貫かんとやうに緊《きびし》く見据ゑたり。
 貫一は苦笑して、
「貴方《あなた》は何を※[#「※」は「言+(「荒」の「亡」の代わりに「曷−日−勹」)」、368−
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