どの顔で逢ふ意《つもり》か。先達而《せんだつて》から頻《しきり》に手紙を寄来《よこ》すが、あれは一通でも開封したのは無い、来れば直《すぐ》に焼棄てて了ふのだから、以来は断じて寄来さんやうに。私《わたし》は今病中で、かうしてゐるのも太儀《たいぎ》でならんのだから、早く帰つて貰ひたい」
彼は老婢を召して、
「お客様のお立《たち》だ、お供にさう申して」
取附く島もあらず思悩《おもひなや》める宮を委《お》きて、貫一は早くも独り座を起たんとす。
「貫一さん、私《わたし》は今日は死んでも可《い》い意《つもり》でお目に掛りに来たのですから、貴方《あなた》の存分にどんな目にでも遭《あは》せて、さうしてそれでともかくも今日は勘弁して、お願ですから私の話を聞いて下さいまし」
「何の為に!」
「私は全く後悔しました! 貫一さん、私は今になつて後悔しました!! 悉《くはし》い事はこの間からの手紙に段々書いて上げたのですけれど、全《まる》で見ては下さらないのでは、後悔してゐる私のどんな切ない思をしてゐるか、お解りにはならないでせうが、お目に掛つて口では言ふに言《いは》れない事ばかり、設《たと》ひ書けない私の筆でも、あれをすつかり見て下すつたら、些《ちつ》とはお腹立も直らうかと、自分では思ふのです。色々お詑《わび》は為る意《つもり》でも、かうしてお目に掛つて見ると、面目《めんぼく》が無いやら、悲いやらで、何|一語《ひとこと》も言へないのですけれど、貫一さん、とても私は来られる筈《はず》でない処へかうして来たのには、死ぬほどの覚悟をしたのと思つて下さいまし」
「それがどう為たのだ」
「さうまで覚悟をして、是非お話を為たい事が有るのですから、御迷惑でもどうぞ、どうぞ、貫一さん、ともかくも聞いて下さいまし」
涙ながらに手を※[#「※」は「てへん+主」、352−3]《つか》へて、吾が足下《あしもと》に額叩《ぬかづ》く宮を、何為らんとやうに打見遣りたる貫一は、
「六年|前《ぜん》の一月十七日、あの時を覚えてゐるか」
「…………」
「さあ、どうか」
「私は忘れは為ません」
「うむ、あの時の貫一の心持を今日お前が思知るのだ」
「堪忍して下さい」
唯《と》見る間に出行《いでゆ》く貫一、咄嗟《あなや》、紙門《ふすま》は鉄壁よりも堅く閉《た》てられたり。宮はその心に張充《はりつ》めし望を失ひてはたと領伏《
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