身を抛《なげう》ちてベットに伏したり。
 厚き蓐《しとね》の積れる雪と真白き上に、乱畳《みだれたた》める幾重《いくへ》の衣《きぬ》の彩《いろどり》を争ひつつ、妖《あで》なる姿を意《こころ》も介《お》かず横《よこた》はれるを、窓の日の帷《カアテン》を透《とほ》して隠々《ほのぼの》照したる、実《げ》に匂《にほひ》も零《こぼ》るるやうにして彼は浪《なみ》に漂ひし人の今|打揚《うちあ》げられたるも現《うつつ》ならず、ほとほと力竭《ちからつ》きて絶入《たえい》らんとするが如く、止《た》だ手枕《てまくら》に横顔を支へて、力無き眼《まなこ》を※[#「※」は「目+登」、312−5]《みは》れり。竟《つひ》には溜息《ためいき》※[#「※」は「口+句」、312−5]《つ》きてその目を閉づれば、片寝に倦《う》める面《おもて》を内向《うちむ》けて、裾《すそ》の寒さを佗《わび》しげに身動《みうごき》したりしが、猶《なほ》も底止無《そこひな》き思の淵《ふち》は彼を沈めて※[#「※」は「しんにょう+官」、312−6]《のが》さざるなり。
 隅棚《すみだな》の枕時計は突《はた》と秒刻《チクタク》を忘れぬ。益《ますま》す静に、益す明かなる閨《ねや》の内には、空《むな》しとも空《むなし》き時の移るともなく移るのみなりしが、忽《たちま》ち差入る鳥影の軒端《のきば》に近く、俯《ふ》したる宮が肩頭《かたさき》に打連《うちつらな》りて飜《ひらめ》きつ。
 やや有りて彼は嬾《しどな》くベットの上に起直りけるが、鬢《びん》の縺《ほつ》れし頭《かしら》を傾《かたぶ》けて、帷《カアテン》の隙《ひま》より僅《わづか》に眺めらるる庭の面《おも》に見るとしもなき目を遣りて、当所無《あてどな》く心の彷徨《さまよ》ふ蹤《あと》を追ふなりき。
 久からずして彼はここをも出でて又居間に還れば、直《ぢき》に箪笥《たんす》の中より友禅縮緬《ゆうぜんちりめん》の帯揚《おびあげ》を取出《とりいだ》し、心に籠《こ》めたりし一通の文《ふみ》とも見ゆるものを抜きて、こたびは主《あるじ》の書斎に持ち行きて机に向へり。その巻紙は貫一が遺《のこ》せし筆の跡などにはあらで、いつかは宮の彼に送らんとて、別れし後の思の丈《たけ》を窃《ひそか》に書聯《かきつら》ねたるものなりかし。
 往年《さいつとし》宮は田鶴見《たずみ》の邸内に彼を見しより、いとど忍びかね
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