さいまし、唯今《ただいま》直《ぢき》に御飯が参りますですから」
「や、飯《めし》なら欲うありませんよ」
「私は未だ申上げたい事が有るのでございますから、荒尾さんどうかお坐り下さいまし」
「いくら貴方が言うたつて、返らん事ぢやありませんか」
「そんなにまで有仰らなくても、……少しは、もう堪忍《かんにん》なすつて下さいまし」
 火鉢《ひばち》の縁《ふち》に片手を翳《かざ》して、何をか打案ずる様《さま》なる目を※[#「※」は「(睹−目)/(翕−合)」、298−15]《そら》しつつ荒尾は答へず。
「荒尾さん、それでは、とてもお聴入《ききいれ》はあるまいと私は諦《あきら》めましたから、貫一《かんいつ》さんへお詑の事はもう申しますまい、又貴方に容して戴く事も願ひますまい」
 咄嗟《とつさ》に荒尾の視線は転じて、猶|語続《かたりつづく》る宮が面《おもて》を掠《かす》め去《さ》りぬ。
「唯一目私は貫一さんに逢ひまして、その前でもつて、私の如何《いか》にも悪かつた事を思ふ存分|謝《あやま》りたいので御座います。唯あの人の目の前で謝りさへ為たら、それで私は本望なのでございます。素《もと》より容してもらはうとは思ひません。貫一さんが又容してくれやうとも、ええ、どうせ私は思ひは致しません。容されなくても私はかまひません。私はもう覚悟を致し……」
 宮は苦しげに涙を呑みて、
「ですから、どうぞ御一所にお伴れなすつて下さいまし。貴方がお伴れなすつて下されば、貫一さんはきつと逢つてくれます。逢つてさへくれましたら、私は殺されましても可《よ》いので御座います。貴方と二人で私を責めて責めて責め抜いた上で、貫一さんに殺さして下さいまし。私は貫一さんに殺してもらひたいので御座います」
 感に打れて霜置く松の如く動かざりし荒尾は、忽《たちま》ちその長き髯《ひげ》を振りて頷《うなづ》けり。
「うむ、面白い! 逢うて間に殺されたいとは、宮さん好う言《いは》れた。さうなけりやならんじや。然し、なあ、然しじや、貴方は今は富山の奥さん、唯継《ただつぐ》と云ふ夫の有る身じや、滅多な事は出来んですよ」
「私はかまひません!」
「可かん、そりや可かん。間に殺されても辞せんと云ふその悔悟は可いが、それぢや貴方は間有るを知つて夫有るのを知らんのじや。夫はどうなさるなあ、夫に道が立たん事になりはせまいか、そこも考へて貰はにやな
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