ませうけれど、私のやうな者に見込れたのが因果とお諦《あきら》め遊ばしまし。
貴方も因果なれば、私も……私は猶《なほ》因果なのでございますよ。かう云ふのが実に因果と謂《い》ふのでございませうね」
金煙管《きんぎせる》の莨《たばこ》の独《ひと》り杳眇《ほのぼの》と燻《くゆ》るを手にせるまま、満枝は儚《はかな》さの遣方無《やるかたな》げに萎《しを》れゐたり。さるをも見向かず、答《いら》へず、頑《がん》として石の如く横《よこた》はれる貫一。
「貴方もお諦め下さいまし、全く因果なのでございますから、切《せめ》てさうと諦めてでもゐて下されば、それだけでも私幾分か思が透《とほ》つたやうな気が致すのでございます。
間さん。貴方は過日《いつぞや》私がこんなに思つてゐることを何日《いつ》までもお忘れないやうにと申上げたら、お志は決して忘れんと有仰いましたね。お覚えあそばしてゐらつしやいませう。ねえ、貴方、よもやお忘れは無いでせう。如何《いかが》なのでございますよ」
勢ひて問詰むれば、極《きは》めて事も無げに、
「忘れません」
満枝は彼の面《おもて》を絶《したたか》に怨視《うらみみ》て瞬《またたき》も為《せ》ず、その時人声して闥《ドア》は徐《しづか》に啓《あ》きぬ。
案内せる附添の婆《ばば》は戸口の外に立ちて請じ入れんとすれば、客はその老に似気なく、今更内の様子を心惑《こころまどひ》せらるる体《てい》にて、彼にさへ可慎《つつまし》う小声に言付けつつ名刺を渡せり。
満枝は如何なる人かと瞥《ちら》と見るに、白髪交《しらがまじ》りの髯《ひげ》は長く胸の辺《あたり》に垂れて、篤実の面貌痩《おもざしや》せたれども賤《いやし》からず、長《たけ》は高しとにあらねど、素《もと》より※[#「※」は「月+叟」、250−1]《ゆたか》にもあらざりし肉の自《おのづか》ら齢《よはひ》の衰《おとろへ》に削れたれば、冬枯の峰に抽《ぬ》けるやうに聳《そび》えても見ゆ。衣服などさる可く、程を守りたるが奥幽《おくゆかし》くて、誰とも知らねどさすがに疎《おろそか》ならず覚えて、彼は早くもこの賓《まらうど》の席を設けて待てるなりき。
貫一は婆の示せる名刺を取りて、何心無く打見れば、鴫沢隆三《しぎさわりゆうぞう》と誌《しる》したり。色を失へる貫一はその堪へかぬる驚愕《おどろき》に駆れて、忽《たちま》ち身を飜《ひる
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