それこそ、御妻君が在《ゐら》つしやるのですから、余り頻繁《しげしげ》上りますと……」
 後は得言はで打笑める目元の媚《こび》、ハンカチイフを口蔽《くちおほひ》にしたる羞含《はぢがま》しさなど、直行はふと目を奪はれて、飽かず覚ゆるなりき。
「はッ、はッ、はッ、すぢや細君が無いで、ここへは安心してお出《いで》かな。私《わし》は赤樫さんの処へ行つて言ひますぞ」
「はい、有仰《おつしや》つて下さいまし。私《わたくし》此方《こなた》へ度々お見舞に出ますことは、宅でも存じてをるのでございますから、唯今も貴方《あなた》から御注意を受けたのでございますが、私も用を抱へてをる体でかうして上りますのは、お見舞に出なければ済まないと考へまする訳がございますからで、その実、上りますれば、間さんは却《かへ》つて私の伺ふのを懊悩《うるさ》く思召《おぼしめ》してゐらつしやるのですから、それは私のやうな者が余り参つてはお目障《めざはり》か知れませんけれど、外の事ではなし、お見舞に上るのでございますから、そんなに作《なさ》らなくても宜《よろし》いではございませんか。
 然し、それでも私気に懸つて、かうして上るのは、でございます、宅《たく》へお出《いで》になつた御帰途《おかへりみち》にこの御怪我《おけが》なんでございませう。それに、未《ま》だ私済みません事は、あの時大通の方をお帰りあそばすと有仰つたのを、津守坂《つのかみざか》へお出《いで》なさる方がお近いとさう申してお勧め申すと、その途《みち》でこの御災難でございませう。で私考へるほど申訳が無くて、宅でも大相気に致して、勉めてお見舞に出なければ済まないと申すので、その心持で毎度上るのでございますから、唯今のやうな御忠告を伺ひますと、私実に心外なのでございます。そんなにして上れば、間さんは間さんでお喜《よろこび》が無いのでございませう」
 彼はいと辛《つら》しとやうに、恨《うらめ》しとやうに、さては悲しとやうにも直行を視《み》るなりけり。直行は又その辛し、恨し、悲しとやうの情に堪へざらんとする満枝が顔をば、窃《ひそか》に金壺眼《かなつぼまなこ》の一角を溶《とろか》しつつ眺入《ながめい》るにぞありける。
「さやうかな。如何《いか》さま、それで善う解りましたじや。太《えら》い御深切な事で、間もさぞ満足ぢやらうと思ひまする。又|私《わし》からも、そりや厚うお
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