ざいます。始終好い加減なことを申しては遁《に》げてをるのですけれど、鰐淵さんは私が貴方をこんなに……と云ふ事は御存じなかつたのですから、それで済んでをりましたけれど、貴方が御入院あそばしてから、私かうして始終お訪ね申しますし、鰐淵さんも頻繁《しげしげ》いらつしやるので、度々《たびたび》お目に懸るところから、何とかお想ひなすつたのでございませう。それで、この間は到頭それを有仰《おつしや》つて、訳が有るなら有るで、隠さずに話をしろと有仰るのぢやございませんか。私為方がありませんから、お約束をしたと申して了《しま》ひました」
「え!」と貫一は繃帯《ほうたい》したる頭を擡《もた》げて、彼の有為顔《したりがほ》を赦《ゆる》し難く打目戍《うちまも》れり。満枝はさすが過《あやまち》を悔いたる風情《ふぜい》にて、やをら左の袂《たもと》を膝《ひざ》に掻載《かきの》せ、牡丹《ぼたん》の莟《つぼみ》の如く揃《そろ》へる紅絹裏《もみうら》の振《ふり》を弄《まさぐ》りつつ、彼の咎《とがめ》を懼《おそ》るる目遣《めづかひ》してゐたり。
「実に怪《け》しからん! ※[#「※」は「言+(「荒」の「亡」の代わりに「曷−日−勹」)」、238−8]《ばか》なことを有仰《おつしや》つたものです」
萎《しを》るる満枝を尻目に掛けて、
「もう可いから、早くお還り下さい」
彼を喝《かつ》せし怒《いかり》に任せて、半《なかば》起したりし体《たい》を投倒せば、腰部《ようぶ》の創所《きずしよ》を強く抵《あ》てて、得堪《えた》へず呻《うめ》き苦むを、不意なりければ満枝は殊《こと》に惑《まど》ひて、
「どう遊ばして? 何処《どこ》ぞお痛みですか」
手早く夜着《よぎ》を揚げんとすれば、払退《はらひの》けて、
「もうお還り下さい」
言放ちて貫一は例の背《そびら》を差向けて、遽《にはか》に打鎮《うちしづま》りゐたり。
「私《わたくし》還りません! 貴方がさう酷く有仰《おつしや》れば、以上還りません。いつまでも居られる躯《からだ》ではないのでございますから、順《おとなし》く還るやうにして還して下さいまし」
いとはしたなくて立てる満枝は闥《ドア》の啓《あ》くに驚かされぬ。入来《いりきた》れるは、附添婆《つきそひばば》か、あらず。看護婦か、あらず。国手《ドクトル》の回診か、あらず。小使か、あらず。あらず!
胡麻塩羅紗《ご
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