舞下さるのは難有《ありがた》迷惑で……」
「何と有仰《おつしや》います!」
「以来はお見舞にお出で下さるのを御辞退します」
「貴方、何と……!!」
 満枝は眉《まゆ》を昂《あ》げて詰寄せたり。貫一は仰ぎて眼《まなこ》を塞《ふた》ぎぬ。
 素《もと》より彼の無愛相なるを満枝は知れり。彼の無愛相の己《おのれ》に対しては更に甚《はなはだし》きを加ふるをも善く知れり。満枝が手管《てくだ》は、今その外《おもて》に顕《あらは》せるやうに決《け》して内に怺《こら》へかねたるにはあらず、かくしてその人と諍《いさか》ふも、また※[#「※」は「りっしんべん+(篋−竹)」、236−15]《かな》はざる恋の内に聊《いささ》か楽む道なるを思へるなり。涙|微紅《ほのあか》めたる※[#「※」は「目+匡」、236−15]《まぶた》に耀《かがや》きて、いつか宿せる暁《あかつき》の葩《はなびら》に露の津々《しとど》なる。
「お内にも御病人の在るのに、早く帰つて上げたが可いぢやありませんか。私《わたくし》も貴方に度々《たびたび》来て戴くのは甚《はなは》だ迷惑なのですから」
「御迷惑は始から存じてをります」
「いいや、未だ外にこの頃のがあるのです」
「ああ! 鰐淵さんの事ではございませんか」
「まあ、さうです」
「それだから、私お話が有ると申したのではございませんか。それを貴方は、私と謂ふと何でも鬱陶《うつと》しがつて、如何《いか》に何でもそんなに作《なさ》るものぢやございませんよ。その事ならば、貴方が御迷惑遊ばしてゐらつしやるばかりぢやございません。私だつてどんなに窮《こま》つてをるか知れは致しません。この間も鰐淵さんが可厭《いや》なことを有仰《おつしや》つたのです。私|些《ちつと》もかまひは致しませんけれど、さうでもない、貴方がこの先御迷惑あそばすやうな事があつてはと存じて、私それを心配致してをるくらゐなのでございます」
 聴ゐざるにはあらねど、貫一は絶えて応答《うけこたへ》だに為《せ》ざるなり。
「実は疾《とう》からお話を申さうとは存じたのでございますけれど、そんな可厭《いや》な事を自分の口から吹聴らしく、却《かへ》つて何も御存じない方が可からうと存じて、何も申上げずにをつたのでございますが、鰐淵|様《さん》のかれこれ有仰《おつしや》るのは今に始つた事ではないので、もう私実に窮《こま》つてをるのでご
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