あの世に於いて、死は謎なり。
[#ここで字下げ終わり]
 彼はこう思っていたのである。人間にとって、人生を楽しむと、すべての生きとし生けるものの美に法悦するほど好いことはない。そこで、彼は自分の独自の人生観の真理をラザルスに説得して、その魂をもよみがえらせることに自信ある希望を持っていた。この希望はあながち至難の事ではなさそうであった。すなわちこの解釈し難い異様な噂は、ラザルスについて本当のことを物語っているのではなく、ただ漠然と、ある恐怖に対する警告をなしているに過ぎなかったからであった。
 ラザルスはあたかも荒野に沈みかかっている太陽を追おうとして、石の上から起ち上がった時、一人の立派なローマ人がひとりの武装した奴隷に護られながら彼に近づいて来て、朗かな声で呼びかけた。
「ラザルスよ。」
 美しい着物や宝石を身に付けたラザルスは、その荘厳な夕日を浴びた深刻な顔をあげた。真っ赤な夕日の光りがローマ人の素顔や頭をも銅の人像のように照り輝かしているのに、ラザルスも気が付いた。すると、彼は素直に再び元の場所にかえって、その弱々しい両眼を伏せた。
「なるほど、お前さんは醜《みにく》い。可哀そ
前へ 次へ
全42ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
アンドレーエフ レオニード・ニコラーエヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング