ケメトスはどこにも見出されませんでした。ケメトスは名前だけを残して、それきり消え失せてしまいました。
 その報知《しらせ》を受けたお祖父《じい》さんは、一言も口をきかずに、ただ悲しげにうなずきました。

 それから後、彗星《ほうきぼし》が空に出るのを見ると、土地の人達は、「ケメトスが飛んでる!」といつも言いました。実際、ケメトスが炬火をかざして塔から河の淵へ飛んだ有様《ありさま》は、空に出る彗星とそっくりだったそうです。



底本:「豊島与志雄童話集」海鳥社
   1990(平成2)年11月27日第1刷発行
入力:kompass
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年4月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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