とで食べましょうか。」
「いや、すっかり平らげてしまおう。」
 ゆっくり食べ、ゆっくり飲み、そして煙草を吸った。
「ああ腹が一杯だ。」
 立ち上って、また噴火口を覗きに行った。太陽もだいぶ昇り、白昼の火口は、ただ巨大な鍋の中を見るようなものだった。私はからのサイダー瓶を、力いっぱいに投げこんだ。広大な火口の中、それはいくらも飛ばず、ひらりと白く光っただけで、すぐ近くに落ち、火口壁に隠れて、音もなく行方も分らず消え失せてしまった。
「危ない。」
 突然、思いがけなく、その感じに私は虚を衝かれた。くるりと向きを変えて、火口から歩み去り、また岩かげに腰を下した。淋しくて惨めだった。何もかも頼りなかった。後からついて来た秋子を招き寄せて、私はその膝に顔を伏せた。何もかも頼りないのだ。憑いてくれ、しっかりと憑いてくれ、そうでないと、俺は淋しいんだ。しっかり憑いていてくれ。そんなことを心の中で言いながら、私はますます惨めになった。
 憑くという意味が、全然別なものになってることを、私は知っている。だが、それでよろしい。秋子を火口の中に突き落すようなことは、私にはもう出来ない。憑かれるのを嬉しがって
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