そそっかしいにも程があるよ。お蔭で冷汗をかいちゃった。」
*
或る貧しい男が、帽子をなくして、なあに、無帽主義だと、ハイカラを気取っていたところ、金が少しはいると、時たま、頭にひやりとしたものを感じて、やはり、帽子を買うことにした。
そこで、帽子屋にはいって、物色してみたが、どうも気に入ったのがない。折角買うんだし、頭にのっけるものだから、慎重を要するので、いろいろいじりまわした後で、顔をしかめて、店をとびだした。丁度、ほかにも客があったので、好都合だった。
ところが、少し歩いてるうちに、どうも、変な気持だ……と感づくと同時に、頭に手をやると、帽子がのっかっている。
立止った拍子に、腹が立って、当惑して、かっとなって、急ぎ足に帽子屋にとって返した。
「おい、何をうっかりしてるんだ。僕が帽子をかぶってたかどうかくらい、分りそうなもんじゃないか。人の頭に新らしい帽子をのっけて、そのままにしとくという法はない。万引じゃあるまいし……注意し給え。」
そして帽子をそこにたたきつけた時には、彼は本当に怒っていた。
*
こうした話を――落ち散ってる話の屑を――次々
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