。が、この話、ただそれだけのことである。これは面白いには面白いが、話の屑籠のなかで、何の役にも立たない種類なのである。
才能のある屑屋は、屑籠のなかの屑から、価のよいものを一目で選り分ける。才能のある文学者も、話の屑籠のなかから、有用なものを、直ちに甄別する。
話の屑籠のなかから拾いあげられた屑が、どういう風に作品のなかに書き生かされているかは、恐らく当の作者だけにしか分るまい。それが第三者にもはっきり分るようでは、その作品は成熟が足りないのである。云いかえれば、心理的にまた性格的に緊密さが不足してるということになる。創作過程は一種の熔礦過程であって、原礦石は凡て形体を止めない。けれども、話の屑籠のなかからも原料が来ることには変りない。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月23日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全6ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング