宅するところです。或る会合に行ったのですが、実にくだらない。」
如何にもくだらなさそうに彼は言ったが、顔には笑みを浮べていた。
「面白くないことでもあったのですか。」
「面白くないというよりも、くだらないんです。」
そして彼は少し真剣になにか考えた。
「嘗て、あなた達はこういうことを言ったでしょう。中国の知識人たちがすべて、ひどく政治に関心を持ってるのが、不思議でたまらないと。然し、今日、終戦後のこの頃、日本の知識人たちはどうですか。みな政治への関心で一杯ではありませんか。もし政治が現在のような段階に終始するならば、政治なんか糞くらえと、政治を勇敢に否定する者が一人でもあったら、私はその人と握手しますね。」
「では、私と握手しましょう。」
彼は私の顔をじっと見て、それから笑いだして、私の手を握りしめた。
そこで、私達は煙草に火をつけてふかした。
「電車、なかなか来ませんね。」と彼は言った。
「車台が少いものですから。退屈でしょう。」
「そうでもありませんよ。」と彼は温和な微笑を浮べた。「人生はすべて行列だ、というようなことを考えていました。学校にはいるにも行列、就職するにも行列
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