ている。焼けトタンや焼け瓦を取り除いたならば、それらは如何に魅力を以て輝き出すことであろうか。
「この都市に生れて育った人々が、故郷という観念を持ち得るものとしたら、そういう風物についてであるに相違ないのです。それ以外に、都会人は故郷の観念を持ち得ないでしょう。」
 私は微笑した。
「然し、町には町の風格があるでしょう。街路の曲り工合とか家並の連り工合とかがかもし出す一種の雰囲気ですね。それから各種の年中行事、殊に祭礼などは、町の風格の大きな要素となります。そういう風格が、都会人にとっては、故郷という観念を形成してくれはしないでしょうか。」
「それは違います。私が言うのは、生活的故郷でなくて、自然的故郷、浮動的な追憶的なそれでなくて、固定的な現実的なそれです。」
 楊先生のこの理論は、私には分ったような分らないような、まあ曖昧模糊たるものであった。だが実際は、楊先生も、なにか曖昧模糊たる夢想を楽しんでいたに違いない。暫くすると、彼はぽつりと言いだした。
「この焼け跡を眺めながら、私は故郷のことをへんになつかしく想い起しますよ。」
 彼の故郷は揚子江岸にある。その赤濁りの漫々たる大河が、
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