っていいでしょうか、まあ、焼け跡見物ですよ。この頃は、こうしてぶらりと出歩くのが楽しみになりました。」
私はその着流し姿を改めて眼に納めた。
彼は大きな笑顔をした。
「楽しみなどと言えば、怒られるでしょうか。」
「なに、構いませんよ。然し、どういうことが楽しいんです。」
「この大都市が、その衣服をぬぎすてて、さっぱりと裸になったようなのが、なんだか嬉しいんですよ。」
私達はいつしか歩きだしていた。彼の歩調はゆるやかだし、私は自転車を押しているので歩くともなく話にみがはいった。
彼の言うところによれば、今迄何の奇もない平凡な小さな人家が立並んでいたこの都市が、火に焼けて丸裸になり、謂わばその弊衣を脱ぎすてて、新鮮な大地が肌を現わしたのは、見る眼に一種の驚異を与えるのだそうである。この都市にこんな大地があることを、実感としてわれわれは忘れていた。しかもその大地には、さまぎまな記念物が刻印されている。決して処女地ではない。数多くの、庭木、池、石燈籠、築土……田園に山川の自然的風物があるように、ここには無数の人為的風物がある。それらの人為的風物が、真裸な新鮮な大地の肌に無数に刻みこまれ
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