かかって、自転車を押して歩いてゆくと、彼方に、日本服の着流しの男が佇んでいた。
その辺、全部焼け野原で、あたりに人影も稀だったが、苛烈な空襲下、日本服の着流しの人は如何にも珍しく、謂わば時勢を知らない流行外れなのである。変な男だなと思いながら、私は近寄って行った。長髪、長身、痩せてはいるが頑丈そうな体躯、その様子に見覚えがあった。楊先生だった。
楊先生は崖上に佇立して、眼前に展開してる焼跡を眺めていた。眺めながら夢想してる風だった。私が近づくのにも気づかなかった。
私は声をかけた。
彼は振り向いたが、なにか夢想から立ち戻るのに手間取るかのように、暫くはぼんやりした顔付で、それからゆるやかに微笑して、私へよりも自転車へ眼をやった。
「ほう、自転車で、どちらへ。」
「ただ、散歩ですよ。」
「散歩はいいですね。然し、自転車では不便でしょう。」
習いたての自転車の爽快さと便利さと楽しさとを、私は自慢しようとしたが、思い止まった。そんなことは通じそうもないものが、楊先生の態度のなかにあった。なんだか余りにゆったりとしているのである。
「あなたも、散歩ですか。」と私は尋ねた。
「散歩と言
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