人が下男の仕事などは決してしないものだと理解していた私は、彼の言葉や表情になにか皮肉なものを探ろうとしたが、彼はまったく真面目なのである。
「この頃になって私は、労働の面白さ、楽しさ、有難さ、そんなものを感じてきましたよ。材木を鋸でひいて、その一片を割台の上に立てておいて、鉈でぱーんと打ち割ることに、日本の剣道の味さえ感じます。」
「然し、骨が折れましょう。」
「なに、大したことはありません。書斎の仕事ほど疲れはしませんよ。」
 書斎には、和漢洋の書籍が夥しく並んでいる。その中に彼は埋まるようにして、種々雑多なものを読みあさっていた。系統的な学問をしてる様子はなく、嗜好に任せた読み方らしかった。老子を殊に好きらしく、和漢の注釈書を集めていた。だが、小説の大作をするつもりで、いろいろ構想をねっていると、酒の上で彼は私に漏らしたこともある。
 その書斎にいる時、彼はいつも、どっしりと構えていた。支那の大人風な貫禄を具えていた。その貫禄は、今、シャツ一枚の薪割姿では、頑丈な骨格となって目立っている。五十年配の痩せた体躯だが、へんに骨の節々が太いように感ぜられる。
 茶を運んできた女中の後姿を
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