江口さんはなお、身禄さんのお祭りをしようとまで考えましたが、余り大袈裟にしない方がよろしかろうとの、A女の助言に、すべて従うことにしました。
 そしてその後、身禄山の碑の前には、誰がするともなく、米塩の供物が絶えませんでしたが、それがいつまで続くかは分りかねます。ただ、身禄山は付近の土地の火伏せの神だと、広く知られるに至りました。

     第二話

 A女の親しい友だちに、村尾さんというひとがありました。これも、同じ年配の未亡人です。
 秋のある日、A女はなにか些細な用事で、村尾さんを訪れましたが、女同士のこととて、殊に未亡人同士のこととて、とりとめもないつまらない話が、それからそれへと枝葉を伸ばしてゆきました。そのうちにふと、村尾さんは言いました。
「ねえ、家相とか方位とかいうものが、ほんとにあるものでしょうか。あなたはどうお思いになりますの。」
 村尾さんは江口さんとちがって、A女の信仰のことなど、一向に知らないのです。
 A女は頬笑みました。
「そりゃあね、世間には、家相をやかましく言ったり、方位にこったりするひとが、あるにはありますが、あなたがそんなこと言いだしなさるのは
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