せかせかと、事の次第を話しました。
その日の正午頃、二階の中程に住んでる人の室から、火が出ました。アイロンをうっかりつけっ放しにして、買い物に出たあと、過熱のために畳をこがし、襖にも火がついたらしいとのことでした。発見された時は、もう窓から濛々と黒煙が出ていました。みんなで寄ってたかって消し止め、幸に大事に至らないで済みましたが、一時は大騒ぎだったそうです。
「あなたが仰言った通りよ。身祿さんて、すごいんですね。それとも、護って下すったのかしら。将来の警告かも知れませんわね。とにかく、よくお祈りしておいて下さいね。」
「ええ、もう大丈夫でしょう。」
「いやに落着いていらっしゃるのね。わたくし、大急ぎでお知らせに上ったんですのよ。まだいろいろ用があるし、また伺いますわ。」
江口さんは急いで帰ってゆきました。
それから、小火の後始末が一段落つきますと、江口さんは、A女の名前だけは祕して、前後のことをやや詳しく人々に語りました。それはただ偶然の一致に過ぎないと、やはり取り合わない者もありましたが、身祿さんにお詣りする者はずっと多くなり、寺の住職にたのんで、供養の塔婆も建てられました。
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