。身禄さん……。「開経偈」を誦しました。次に、「如来寿量品第十六」を誦しました。
[#ここから2字下げ]
自我得佛来 所経諸劫数
無量百千萬 億戴阿僧祇
常説法教化 無数億衆生
令入於佛道 ……………
[#ここで字下げ終わり]
 この経を二回繰り返し、それから御題目にはいって、身禄さんを心に念じました。気も軽く、身も軽くなり、自然に、「宝塔偈」と「発願」とを誦しました。
 燈明を消し、寝間着に着替えて、彼女は安らかに眠りました。
 翌日になっても、彼女はもう昨夜のことなど気にかからず、家庭の仕事に取りかかりました。
 その日の、夕陽がまだ高い頃、江口さんがやって来ました。急いで来たとみえて、額に汗をにじまし、息を切らしています。A女の顔を見ると、いきなり言いました。
「やっぱり、火が出ましたよ。でも、ボヤでよかった。」
「わたくしには、もう分っておりました。まあお上りなさいよ。」
「いえ、そうしてはおられませんの。」
 玄関での立ち話しでした。
「どうして、お分りになりましたの。」
 A女は昨夜のことを話しました。その落着き払った様子を、江口さんは呆れたように眺めていましたが、こんどは
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