ました。
 約束の日に、A女は自分の身に御経がけをして出かけました。普通の行者なみに見られては忌々しいものですから、入念にお化粧をし、お召の着物に塩瀬の帯、紋付の羽織をひっかけました。小泉さんはA女より少し背が低く、なんだか付添いの女中のように見えました。
 松しまの入口は、手狭い洒落た造りで、そこをはいると、ゆるやかな上り勾配の地面に砂利を敷きつめたのが、思いがけなく広がり、突き当りに寒竹の茂みがあって、左手が玄関の式台となっています。
 A女はちょっと、寒竹の茂みの前に足を止めました。
 ――ここだ。
 音なき声がしましたが、彼女は素知らぬ顔をして、屋内へ通りました。
 女中に案内されて、一室に落着きますと、すぐに女将さんも出て来て、みごとな菓子や果物のもてなしがありました。女将さんは顔の色艶もよく、言葉もてきぱきしていまして、髪だけが老年らしく引きつめに結ってあります。いろいろなことを口早に饒舌りました。おもに昔のことで、縁日とか祭礼とか、お酉様の話まで出ました。それにまた、午前中のこととて客はありませんでしたが、用が多くて、しばしば席を立ちました。女中頭らしい年増の女が、女将さ
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