ところによりますと、やっぱり、資金の話は、今年中にはまとまりそうもないらしいんですの。そして、手堅くやってゆくことに、女将さんも賛成らしいんですよ。」
「そうでしょうとも、それがほんとうですわ。」
 それはただ軽い応対でしたが、A女はそのあとで、忠告するように言いました。
「あのうちには、熱心に信仰したものがあるはずですよ。それが今はうっちゃってあります。も一度信仰なされば、きっとよいことがありますでしょう。どうやら、伏見稲荷のように思われますがね……。」
「そのこと、達吉に聞かせてみましょうか。」
 A女は夢から覚めたようにびっくりしました。
「いけません。そんなこといけませんよ。どうか内緒にしといて下さい。わたくし、ちょっと思いついただけですもの。」
 A女はよく念を押しておきました。
 けれども、小泉さんにとっては、そんなこと、大したことでもありませんでしたが、また、ちと気にかかることでもありましたので、達吉に話してしまいました。
 すると、達吉はたいへんな頼みごとをもたらしてきました。
 松しまでは以前、伏見の稲荷さんを祭って信仰していました。戦災後はそのままになっていましたが
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