労力とを提供してくれました。
 寺の石門をはいって、石畳の道を進みますと、左手に、経塚の碑が大きく建っており、新しく植え込まれた檜葉や呉竹の茂みがあります。その茂みのそばに、地蔵さんは安置され、花が供えられ、無縁仏のための塔婆が立てられました。
 分譲地から来た数名の人々を後ろにして、老年の住職と、少しさがってA女とは声をそろえて読経しました。最初の開経偈と最後の宝塔偈との間に、妙法蓮華経のなかの、「方便品第二」と「如来寿量品第十六」が誦唱されました。
 斯くして、地蔵さんはそこに落着きましたが、もとは無縁の墓碑を兼ねたものであったとしても、地蔵さんである限り、なにか名前がいります。A女は寺内の座敷で、老住職にお礼を言って対談していますうちに、ふと胸に浮んだものがありました。
「あのお地蔵さま、延命地蔵と申しましては、如何でございましょうか。」
「延命地蔵……宜しいでしょう。」
 そこで延命地蔵と名づけることになりましたが、その本来の意味は、普通のものと少し違っています。その地蔵さんは、嘗てうち捨てられていたのを、あの地所の所有者の祖母に拾い上げられ、そしてまたうち捨てられていたのを、
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