ても、高さ四尺ばかりの自然石の表面を削り、台座を下部に残して、地蔵の姿を浮き彫りにしたものです。そして片わきに、奉○○院○○信女霊位、という文字が刻んでありますので、恐らく、墓碑を兼ねたもので、故人の冥福を祈って地蔵の姿を彫ったのでしょう。他の片わきに、壬辰天二月十四日、という文字がありますが、これだけではいつの頃のものやら分らず、石はだいぶ欠け損じていて、たいへん古いもののようです。
 この石を、誰も始末しようとする者がありませんでした。そのことを村尾さんから聞いて、A女は自分でやることにしました。そこからさほど遠くない所に、以前から懇意な住職がいましたので、それへ相談しますと、寺の境内の空地を快く貸し与えてくれました。その寺は格式の高いものでしたが、戦災にあって、小さく再建されたばかりで境内は広々としております。
 地蔵さんの供養の費用としては、相良家の分譲地の人々から志だけの金を集め、不足の分はA女が負担しました。住職の方でももとより金額などは問題にしていない事柄でしたから、少いながらもA女の見計らいによったのです。石を運ぶのには、分譲地の一軒に住んでる大工職のひとが、リヤカーと
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