取り掛るよう勧めました。
 ところが、いざとなると、A女が言ったように、諸人の議がなかなかまとまりませんでした。身禄さんの時と同じでした。
 今井さん夫婦は、村尾さんから説かれて賛成しましたし、他に賛成する者もありましたが、全然無関心な者もあり、強硬に反対する者も出て来ました。なにしろ、多少なりと金のかかることですし、常識的に見て迷信めいた事柄でした。迷信はすべて打破しなければならないというのが通念なのです。
 それに、相良家の方でも、主人が旅行中で、交渉してみても、はっきりした返事が得られませんでした。
 ただ徒らに日がたってゆきました。
 村尾さんは様子を聞いて、A女に言いました。
「一向に話がはかどらないそうですよ。先に立ってやろうという人がないらしいんですの。」
 A女は静かに答えました。
「おおかた、そんなことだろうと、わたくしも思っておりました。」
 村尾さんには、A女自身までが冷淡なように見えました。
 するうちに、事情が一変しました。相良家の主人が旅から帰って来て、右の話を聞きますと、稲荷さんを祭るのもよかろうと言いました。そんなことに何もこだわる必要はないし、屋敷内に
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