どうすれば宜しいんですの。」
「まあ急ぐことはありますまい。あとでまた申しましょう。」
 地所の件についての話はそれきりになって、A女は辞し去りました。
 それから中二日おいて、村尾さんは慌しくA女を訪れてきました。
 座敷に通ると、村尾さんは、A女がお茶をいれようとするのももどかしそうに、いきなり言いました。
「ふしぎねえ、あなたが仰言った通りですよ。」
「いったい何のことですの。」
「そら、あの相良さんの地所のこと……。」
 村尾さんはあれから、今井さんのところへ行って、A女の告げたことが本当かどうか、問いただしたのでした。
 一つはすぐに分りました。相良家の屋敷の隅に、小さな稲荷の祠がありました。石を畳んだ土台の上に、木の御堂が立っております。戦災当時は樹木の茂みにでも護られたかして、焼け残ったのでしょう。その樹木もあらかた燃料に切られたらしく、今では雨曝しになっていました。そしてただうち捨ててありました。
 も一つは、今は残っていませんでしたが、聞き合せて分りました。分譲地一帯は、ゆるい傾斜面になっていまして、今井さんの下手の家を建てる時分、そこに大きな樹の切株があったそうです
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