、未だにぶらぶらしてる始末です。
 病気とか災難とかが重なることは、人生にしばしばあるもので、今井さんの家の事態も、そう簡単に片付けてしまえば、それで一向差支えないのですけれど、思いようではやはり気にかかります。
 それからふと思い廻してみますと、そこの分譲地に建ってる六軒の家に、みな、ろくなことはありませんでした。一軒は、夜盗がはいって、奥さんの衣類をごっそり持ってゆかれました。一軒は、娘さんが虚弱で、学校も休みがちでした。他の三軒には、みな、肺を病んでる女人がありまして、今井さんとこと同様なのです。
 村尾さんは溜息をつきました。
「ねえ、なんだかへんでしょう。」
 A女は簡単な合槌をうって話を聞いていましたが、眼尻が少しつり上り、瞳が据ってくると、いきなり言いました。
「それは、地所の障りですね。」
 言ってしまってから、A女ははっと気づきました。よけいなことを口に出したという、軽い後悔の念を覚えました。
「え、地所の障りといいますと……。」
 村尾さんは真剣に問いかけてきました。他人さまのことならとにかく、自分の娘の嫁入ってる家がそこにありますし、娘がげんに病人の一人なのです。
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