たえて眠っていた。それを見定めておいて、彼はまた私の方へ向き直った。
「実際不思議ですよ。聞いて下さいますか。」
彼は音をさして唾液《つばき》をのみ込んで、それから話し出した。
「私は東京の本郷の、根津権現の裏手に住んでいますが、あの根津様の中では、いつも大勢子供が遊んでいます。私は子供が大好きでしてね、子供達の遊ぶ所を見るのが、何よりの楽しみです。無邪気で、憎気がなくて、面白いものですよ。余り私が始終見ているものですから、しまいには向うから私になずいてきましてね、私のことを小父ちゃん小父ちゃんって云うんです。時々煎餅なんかを買ってやると、喜んで食べてくれますよ。手ぶらで行くと、小父ちゃん何か買っておくれようって、寄って来てねだるんです。あの辺には駄菓子屋がいくらもありますから、私は餅菓子だの、飴ん棒だの、面子《めんこ》だの、いろんな物を随分買ってやりましたよ。お蔭で貧乏しましたがね、子供のためだから苦にはなりません。だけど、子供に貧乏だってことを知られるのは、親としての恥さらしですね。小父ちゃんはこんな物を食べてるの、と云われた時には、私もつくづく赤面しました。」
彼は恥しそうに
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