な気持になって、今眼覚めたような風を装いながら、頭をもたげ身を起して、彼の視線の方向を辿ってみた。すると其処には、通路を挾んだ一つ後ろの座席に、腰掛の背にもたれて眠っている女の膝を枕にして、五六歳の少女が眠っていた。髪の毛の多い、頬のふっくらとした、一寸可愛い子供だった。
 元来子供を余り好かない私は、期待外れの馬鹿馬鹿しい気持になったが、そのために眠気を取失ってしまって、仕方なしに煙草に火をつけた。すると男は、子供から眼を外らして、私の方をじっと眺めた。私が煙草を二吸いする間、まともに私を見続けた。私は少したじろいだ心地になったが、思い切って尋ねてみた。
「煙草の煙がお嫌ですか。」
「いいえ。」
 口先だけでそう答えて、彼はやはり私から眼を外らさなかった。それに反撥するような気で、私はまた云ってみた。
「どちらまでいらっしゃるんですか。」
「小樽です。」
 それでも彼はまだ私から眼を離さなかった。而もまるで木石《ぼくせき》をでも見るように、私の存在を無視した見方だった。私は嫌な気持になって横を向いたが、生憎それが先程の子供の方だった。そして私は暫く、子供の寝顔を睥みつけてやった。

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