もやもやしたものを突き破るように、敏子は言いました。
「洋子さんだって、わたしより年上だけれど、まだ独りでいらっしゃるわ。」

 秋田洋子は、中山敏子の同郷の友人でありまして、郷里で女学校を了えると、東京に出て専門学校に学び、親戚の家に寄居して、ある出版社に勤めていました。眼玉のよく動く円い眼をしていまして、それが時によって、ひどく無邪気にも見え、自由奔放にも見えました。
 敏子に結婚問題が持ち上ってる頃、秋田洋子は郷里に帰っていましたが、一度の便りもしなかったあと、出京するとふいに訪れて来ました。
 敏子は飛び上るように喜んで、自室に迎え入れました。
 まじまじと見合うお互の顔は、以前と少しの変りもありませんでした。それだけでもう、本当のお話は済んでしまったようでした。
 敏子は世間話のような調子で、縁談のことを打ち明けました。それについての自分の態度を語りました。洋子はすべて賛成しました。そして言いました。
「今どき、結婚なんかなすったら、もう絶交よ。」
 顔で笑って、大きな眼でじっと見つめられて、敏子は、なにか胸に釘を刺された[#「刺された」は底本では「剌された」]ような気持ちが
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