すぎるんですもの。」
「そんなことを言って、あなたはもう二十四ですよ。結婚は早すぎますからなどと、副島さんに御返事が出来ますか。それは、誰にしたって、まだ結婚するのは早いという気がするものです。わたしもね、お父さまに初めてお目にかかる時、逃げだしてしまって、あとでさんざん叱られたことがありました。けれど、あなたはもう二十四歳になりますよ。」
「あら、お母さまはいつも年のことを仰言るけど、そうじゃないんですの。戦争がすんだばかりで……だから、結婚には早いと思いますの。」
そこまでゆくと、話はうまく通じませんでした。敏子にとっては、戦後に開けた自由な時代が、結婚などとはどうしてもそぐわない感じでした。殊に筒井直介のような人柄との結婚は、考えられない心地でした。それかといって、今度の縁談を断ってしまえば、あとにまた他の縁談が持ち上るに違いありませんでしたから、今度のを楯に取って、すべての縁談を拒むつもりでした。別に独身主義というのではなく、ただ当分の間、気がすむまで、自由な空気を呼吸したかったのです。そういことが、敏子としては母に説明しにくいのでしたし、母には理解しにくいのでした。
その
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