妥当な意見を持っているようでした。碁と将棋とどちらが面白いかということについて、彼は言いました。
「上達が速いか遅いかによって、きまると思います。碁の方に速く上達する人にとっては、碁の方が面白いでしょうし、将棋の方に速く上達する人にとっては、将棋の方も面白いことでしょう。」
 そういう意見は、話を発展させる代りに、話を萎ませるのに役立つだけでした。そして彼自身は、至極真面目に、何事にも耳を傾けながら、一座の人々と同じように、菓子をたべ、ピーナツをつまみ、コーヒーにちょっぴりウイスキーを注いで飲みました。敏子の方には殆んど注意を向けていないかのようでした。
 敏子の方も、彼に注目していたわけではありませんでした。伏目がちにしとやかに座っていて、副島の伯母さんの話相手になりながら、茶菓を弄んでいました。そしてただ時折、ちらりと、視線を彼の方へ向けました。視線を動かすのは悪戯めいた心持ちでしたが、視線そのものは一座の虚を衝き隙間を縫って、いろいろなものを捉えました。
 ――あの人、あれで退屈でないのかしら。
 それが結論でした。そして敏子はもう、視線の悪戯に自ら退屈しはじめました。新たに三人
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