着て、真直を向いて坐っていました。左右に体をねじ向けることはなさそうでした。白い上向な顔立で、額にかすかな一抹の蔭がありました。その蔭が、顔の表情を抑制して、端正なものにしてるようでした。笑う時にも、声から眼色から顔面の動きなどに、きまった限度があるようでした。心臓の鼓動も常に調子がととのってるに違いないようでした。そしてそれらのことが彼の身にぴったり附いていて、彼は決して眉をひそめることもなく、退屈することもなく、穏かな自足の気持ちでいるようでした。
副島の伯父さんは、時々、彼の方へも言葉を向けました。彼は自分から話をしだすことはありませんでしたが、他から話を向けられると、当り障りのない中庸を得た返事をしました。つまり、なるべく率直な調子でなるべく何事も言わないという要領を、よく心得ているようでした。けれどこのことについては、敏子にはよく分りませんでした。政治のことや、経済のことや、法律のことなど、しかも敏子にはあまり関心の持てない事柄が、主な話題となっていました。その合間には話題もくだけて、魚釣りのこと、競馬のこと、碁将棋のことなども、持ちだされましたが、そのどれに対しても、彼は
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