で待ち伏せしてるようね。」
 そのあとで、洋子は駆けだしました。彼方から、二人の青年がやって来ました。洋子は振り向いて、敏子を手招きしました。敏子はゆっくりと、真直に歩いてゆきました。
 洋子はもう、二人の青年と話をしていました。その一人が保科哲夫であると、敏子にも分りました。
 無帽で、縮れた長髪、眼鏡の奥から、更に奥深い眼が光っていました。少しくだぶついたズボンに、きちっと引きしまった上衣で、背の高い痩せた体でした。その方へ、敏子は真直に歩いてゆきました。気怯れも気恥しさも感ぜず、ただ夢の中のような心地でした。
 保科哲夫は、左手を少しあげかけて、またそれを下し、立ち止って、敏子をじっと見ました。
「あなたが、あの時の中山さんですか。ちっとも変りませんね。いや、ずいぶん大きくなりましたね。」
 その時敏子は、彼が少し酔ってるのを見て取りました。
「よく来ましたね。あなたも会員におなりなさい。秋田さんが黙っているものだから、僕はあなたのことをちっとも知らなかった。さあ行きましょう。あとでゆっくりお話しましょう。愉快ですよ、僕たちの会は。作法だけを心得てる赤裸な野人、そういう人間ばかり
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