えた気持ちになりました。そして秋田洋子を探しましたが、なかなか見当りませんでした。
 敏子は当惑して、外に出ました。街路を一廻りして戻ってき、階段をゆっくり昇ってゆくと、洋子にばったり出逢いました。
 二人は頷きあいました。廊下の先端の人のいない所へ、洋子は敏子を引っぱってゆきました。
「保科さん、さきほどいらしてたわ。待ってらっしゃいよ、探してくるから。」
 そこに、敏子は長い間待たされました。それから、外に出て、街路にぼんやり佇んで待ちました。通行人を見るともなく眺めながら、心は遠い雪国へ舞い戻ってゆくような気持ちでした。
 長い時間のあと、洋子がやって来ました。
「こんな所にいたの。ずいぶん探したわ。だけど、こんどは保科さんの方がだめよ。どっかに消えちゃったって、仲間の人たちが仰言ってるわ。なんだか手違いが多くって、予定通りの行事にならないらしいの。それでも、みなさん、平気でいるから、おかしいわ。もう初まるところよ。会場へ行きましょうか。」
 敏子は気のない微笑を浮べて、動こうとしませんでした。
 洋子もぼんやりそこに居残りました。そして暫くたって、ふいに笑いだしました。
「まる
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