るわ。」
「ええ、きっと来てね。」
 その会合は、四月二十日の午後三時頃からのことでした。けれど、自由な我儘な人たちばかりのことだから、予定よりだいぶ後れるだろうとのことでした。
 それまでの数日、敏子はなんとなく新らしい気持の日々を送りました。保科哲夫に逢ってみてどうするかという期待は、聊かも持ちませんでしたけれど、洋子から聞いたその団体の趣旨が、分らないなりにも心に触れるところがありました。過去のすべてを葬る、ただそれだけの言葉にも、なにか新らしい自由な空気が感ぜられました。雪のなか、ソリの上で、嘗て耳にしたあの言葉の幻影も、現実の保科哲夫に逢ってみたら、消え失せてしまうかも知れませんでした。
 その日になると、敏子は、軽快な茶色ウールのスーツを着、キッドの赤靴をはいて、楽しげに出かけました。
 車が後れて、会場には三時半すぎに着きました。まだ会合は初まっていませんでしたが、控え室や廊下に、賑かな群れがありました。若い人たちが多く、たいてい服装は粗末で、たいてい長髪を乱して、すべての眼が生々としていました。美しいと言うよりは寧ろ怪しげに光ってる眼でした。それらの眼のなかで、敏子は慴
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