れてるから、それは当然であろう。けれど、山奥にもそういう深淵がある。
 群馬県の山奥、といっても、利根川の支流の溪谷だが、沼田駅から丸沼温泉へ行く途中に、吹割の滝という美しい滝がある。日本のナイヤガラとも言われる。河流が拡がって、その大部分は真直に懸崖から落下し、一部は懸崖を廻って反対側から落下している。その滝壺が、竜宮に通じてると伝えられているのである。
 むかし、或る日の夕方、一人の馬方が、この滝壺で馬を洗っていました。すると、滝壺の底から、河童が出て来て、馬の睾丸を抜こうとしました
 それを見て、馬方はいきなり、河童の首根っこを押えつけました。
「けしからん奴だ。おれの大事な馬の、睾丸を抜こうとしやがったな。殴り殺してやるから、そう思え。」
 馬方は握り拳をかためて、河童の頭の上に振り上げました。
 河童は首根っ子を押えつけられながら、声をしぼって謝りました。
「許して下さい。どうか許して下さい。つい出来心で、悪いことをしようとしました。許して下さったら、必ず御恩に報います。この世にまたとない珍らしい物を、持って来て差上げます。」
 馬方は振り上げてた拳をおろしました。
「なんだ
前へ 次へ
全8ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング