と仰言るので、お前は連れて来られたのだ。」
 猿はびっくりして、これはたいへんなことになったと思いました。けれど、猿も利口です。亀が出て来て、御殿の中へ案内しようとしますと、猿は困ったような様子をして言いました。
「亀さん、とんでもない忘れ物をしてきたよ。うちの山の木に、肝をかけてほしておいたのを、忘れていた。雨でも降りだしたら濡れてしまうだろう。心配だな。」
「なあんだ、猿さん、肝を忘れてきたのかい。それじゃあ、早く取りに行くよりほかあるまい。」
 そこで龜は、また背中に乗せて、もとの海岸まで戻って行きました。
 猿は大急ぎで、小山の上の高い木に登り、知らん顔をして、方々を眺めています。亀は海の中から催促しました。
「猿さん、猿さん、肝はどうしたかね。」
 猿は笑って、大きな声で返事しました。
「海中に山なし。身を離れて肝なし。」
 だいたい右のような話だが、この猿の返答は痛烈である。そして話全体が、だいぶ近代的になってるし、動きも多い。漢法薬の店には、現に、猿の肝の乾物を売っている。
      *
 竜宮に通じてると称せられる洞穴や深淵は、海岸にたくさんある。竜宮は海中にあるとさ
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