根に怒気を現わしました。
「お前は、一体、何処へ行ったんだ。」
「十里ほど彼方へ行きました。そして、どうやら、妥協の方法をつけてきました。」
「なに、あの盗賊どもとか。」
「左様です。」
「怪しからん。」
張一滄は握り拳で机を叩いて、立上りましたが、またすぐ椅子にかけました。
「然し、俺がいいつけたことは、俺との約束は、あれはどうしたんだ。」
「何のお話でございますか。」
「なに、何をいうのだ。俺たちの苦力を、お前の青布の連中を、結束して立たせる、ということではなかったか。」
「それには武器がいります。然し武器は少しもありません。」
「たとい銃がなくても、刃物や鉄棒や石はある筈だ。」
「そのような物では役に立ちますまい。」
「身体でぶつかってゆくのだ。今になってお前は、何ということをいうんだ。あの連中はどうしてるんだ。」
「日頃の通りにさしておきました。匪賊どもがやって来ても、ただ素知らぬ風をしているようにいいつけておきました。」
「全然話が違う。お前は、この町を、盗賊どもに踏み荒させて、それでよいと思うのか。」
「さほど踏み荒しもしますまい。こちらではただ、わきを向いておればよろし
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