いでしょう。」
「そして、俺の倉庫はどうなるのだ。俺の物貨はどうなるのだ。」
「まあ大丈夫のつもりであります。穀物の類と毛織物の類がおもなものですから……。」
「それだ。俺が買い込むつもりだったのは、鑵詰類と綿布類だった。それを、穀物と毛織物に切替えたのは、お前の仕業だな。」
「いえ、初めからそういう御註文だったのではございませんか。匪賊どもは、鑵詰は便利だから掠奪しますが、穀物は調理に手数がかかりますから、あまり沢山は持ち去りませんし、また、毛織物は本能的にきらって、綿布に執着するものだと、そういうお考えのように存じておりましたから、お考え通りに取計らいましたのです。」
「誰が考えたんだ。お前一人の考えだろう。俺が註文したのは、鑵詰類と綿布類で、外の品物ではないんだ。それが、倉庫の中には何がつまっているんだ。」
 それらの対話の模様では、すべてが矛盾してるようでした。買入れ品目が全く違っているし、匪賊への対策も全く違っていました。その違いはどうやら、朱文が独断で勝手に取計ったもののようでありました。
 張一滄がいきり立てば立つほど、朱文は落着き払って、微笑のうちに逆な返事ばかりしまし
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