硝子の瓶や、くすんだ色の陶器の瓶などが並んでいて、グラスが四つほど、とろりとした緑色の液や透明の液を、一杯湛えていました。
 彩紅はそのグラスの一つを一息に飲み干して、いいました。
「いつ、お発ちになるの。」
「さあ、いつでもいいが……。」と朱文は言葉を濁しました。
「でも、夜ね。」
「なぜ。」
「あれがあるから。」と彩紅は二挺の銃の方を視線で指しました。
 その時、朱文はふいに彩紅の方へ振向いて、じっとその顔を見ながらいいました。
「どう、も一度考えなおして見ないかい。」
「なにをなの。」
「僕と一緒に行ってしまうということだよ。」
「だめ。此処でならいいけれど、どうせ私は、あなたの邪魔になるばかりだこと、はっきり分ってるわ。此処で…… もう五年にもなるのね。あたし、五年の間に、一生を生きてしまったと思えば、それでいいの。」
「然し、僕が発ってしまった後は、どうするつもりだい。」
「どうするって、もう一生を生きてしまったんですもの。」
「だってまだ君は……。」
「もう生きてしまったの。」
 ぽつりといって、彩紅は朱文の胸に顔を埋めました。
 朱文はじっと宙に視線を据えていましたが、ふ
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