岸の広場に、互にまじり合って集り、火が焚かれ、豚や鶏が灸られ、酒甕の口が開かれ、賑かな夜宴が、寒夜野天の下で始まりました。苦力たちがみな、腕に小さな青布をつけているのが、何か底気味悪い感じを匪賊たちに与えたようでもありました。彼等はいわるるままに導かれて、町家には殆んど乱暴をせずに終りました。夜遅く、その夜宴を垣間見に、起き出してきた町人さえありました。
 とはいえ、この事件は、町にとっては何よりも大きな衝撃だったのであります。町中がその一夜、眠りもせず戸を閉めきって、息をひそめていました。
 そしてまだ未明の頃、河の面がほんのりと白んできますと、匪賊たちを満載した数隻の荷船が、苦力たちに漕がれて、揚子江を対岸の荒蕪地へと渡りました。一隻の船には、酒甕や綿布類や鑵詰類や若干の金銭が積まれていました。
 それらの荷船が、空になって戻って来ます頃には、夜はもう明け放れて、町人たちは河岸に駆け出し、漕ぎ手の苦力たちを歓呼して迎えました。
 匪賊たちが進路を対岸へ取ったのも、討伐隊の待伏せを恐れた故もありましょうが、朱文の意見に従ったからだという説もあります。
 斯くして、町は僅かな被害だけで
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