突きとばそうとしましたが、相手の平静さに気圧されたようで、ちょっとたじろいだのが、更に憤激を破裂さして、拳を振上げるなり、朱文の頬を殴りつけ、続けざまにまた二三回殴りつけました。
朱文は少しぐらつきましたが、微笑の影のすーっと消えた緊張した顔付で、恭しく頭をさげて、そして平静な足取りで室から出て行きました。
一座の人々も手の出しようがなく、咄嗟の出来事を見て駆け寄りましたが、それらの人々の腕の中に、張一滄はぐったりと倒れかけました。
匪賊の襲来は急速でありました。その翌日の夕闇迫る頃、百五十名ばかりの武装隊が町を占領しました。というよりも寧ろ、町に案内されて屯ろしました。
町の人たちは皆、家屋の奥に逃げこみ、閉じ籠っていましたが、多数の逞ましい苦力たちが、宛も友人をでも迎えるような調子で、にこにこした態度で町中をうろついていましたので、これには匪賊の方で勝手が違って、急に和らいだ気勢になってしまいました。朱文と賊の首領との間に、何か連絡があったのだとも、一説では伝えられています。
そうして、匪賊たちは苦力たちに話しかけ、苦力たちの方でも匪賊たちに話しかけました。
そして河
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